2026.05.29更新 社外取締役メッセージ
— 異業種での実務知を生かし、 次の成長を見据える
私は食品会社において、液晶をはじめとする電子材料およびその周辺技術の研究開発に加え、生産、品質、工場マネジメントまで幅広く携わってきました。また、当時は周縁的と見なされていた新規事業が収益の柱へと成長していく現場にいた経験は、製造業である当社の経営課題の把握、および取締役会における議論の深化に貢献できるものと考えています。
当社の強みは、自らの歩みを省察し、時代のニーズを先取りした新たな事業創出に情熱を注ぐとともに、それを長期的視点で大切に育んできた点にあります。さらに、強固なバリューチェーンを構築し、世界シェアトップクラスの製品を多数有していることは、価格競争力と安定した収益基盤の源泉となっています。また、中期経営計画「PASSION 2026」においては、事業ポートフォリオの高度化を通じて高付加価値分野へ経営資源を集中させる戦略が着実に進展しており、企業体質の変革が前向きに進んでいると評価しています。加えて、過去のプラント事故を風化させることなく、経営陣が安全・保安活動に強い意識を持ち続けている点は心強く、今後も継承すべき重要な取り組みであると考えます。
— 課題は、地政学的リスクへの対応、 機動力強化、人材の多様性
一方で、課題は大きく三点あると認識しています。
第一は「地政学的リスクへの対応」です。海外売上比率が約80%に達する当社にとって、米国の政権交代や中国経済の減速など、世界的な需要構造の変化は注視すべき重要な課題です。
第二は「機動性のさらなる強化」です。当社はこれまでも市場ニーズの変化に機敏に対応し、海外市場へいち早く進出することで事業拡大を実現してきました。今後も持続的な成長を実現するためには、次の成長領域を見据えた新製品開発と新事業の育成を一層加速させることが不可欠です。そのためには、研究開発へのDXの積極的な導入・活用により、研究効率の向上とイノベーション創出を同時に推進していくことが重要であると考えます。
第三は「人材の多様性」です。とりわけ中核人材の多様性確保や経営幹部候補の育成は、将来の競争力を左右する重要な要素です。多様性指標の開示は進んでいるものの、達成度や実効性に関する議論は必ずしも十分とは言えません。取締役会において課題認識を共有した上で、実効性向上に向けた提言を行いながら、今後重点的に議論を深めていきたいテーマの一つです。
また、業績面については、長期的に収益規模を拡大してきた一方で、さらなる利益率の向上に向けて組織改革や販管費の最適化が求められます。事業ポートフォリオの高度化に伴う減損損失や固定資産廃棄損の計上は一時的に純利益を押し下げる要因となります。しかし、大規模な生産設備を有する企業にとって、将来を見据えた設備更新や除却は健全な経営判断であり、計画的な実施が不可欠であると考えています。
— 「 未来のための整理」を徹底し、 建設的な議論を重ねていく
クラレの創業者・大原孫三郎の言葉に、「現在と過去を整理するのは未来のためだ」という一節があります。当社には、自らの事業の軌跡を省察し、繊維から化学へと事業構造を転換させながら、未来を切り拓いてきた歴史があります。市場環境の不確実性が高まる今、世界トップシェア製品と独自技術を基盤に、社会にどのような価値を提供し続けていくのかが改めて問われています。各事業の成長性や将来性については、なお一層踏み込んだ議論の余地があると認識しています。私は社外取締役として、各事業の未来の可能性を多角的に見極め、中長期的な企業価値の持続と経営の健全性を担保する視点から、助言と監督の双方を意識した建設的な議論を重ねていく所存です。株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、進化し続ける当社の真価をより深くご理解いただけるよう努めてまいります。今後とも一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
— バイオ医薬で培ってきた 知見を生かして
私はこれまでバイオ医薬の最先端研究に携わってきました。医薬品事業は、高度な品質管理と革新性が求められる一方、巨額の投資が成果に結びつかないリスクも常にはらむ領域です。そのような環境下で私がより所としてきたのは、「この技術は本当に患者さんを救えるのか、社会への貢献を真に果たせるのか」という問いでした。この視点は、当社の経営理念である「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」と深く共鳴するものと確信しています。不確実性の高い経営判断を迫られる局面においてこそ、社会的意義を起点に議論を深めることが重要です。リスクと価値の両面を見極めてきた知見を生かし、当社の進むべき道を照らす一助となりたいと考えています。
— 市場評価に向き合い、 次なる成長の道筋を立てる
当社の最大の強みは、ビニルアセテート関連事業に代表される、原料から製品までを一貫して手がける垂直統合型の生産・開発体制と、それを支える卓越した技術力にあります。その基盤には、製造現場の「人」を大切にする企業風土があります。経営トップ自らが現場に足を運び、従業員との対話を重んじる姿勢や、独自の技術で世界シェアNo.1製品を数多く生み出してきた実績は、当社の持続的な競争力の源泉として高く評価しています。
一方で、主力製品の競争激化や新製品の収益化の遅れ、設備の老朽化といった課題も直視しなければなりません。また、次なる成長の柱の育成は喫緊の課題であり、DXの進展や多様な人材の登用を含め、製造業としての競争力をいかに進化させていくかが問われています。
今後は、事業・製品ポートフォリオの抜本的な整理、投資の優先順位付けなど、将来の成長を見据えた経営判断が一層重要になります。既存の歩みを基盤に進化を図るのか、未踏の大きな経営判断に踏み出すのか。あるいは、その中間の道を見いだすのか。未来の成長に向けた道筋についての議論を、今こそ取締役会において正面から深めていく必要があります。
また、足元の業績に見られる、増収を確保しながらも減益となっている構造的課題に対し、執行側が強い危機感を持って改善に取り組んでいる点は評価しています。
その上で、短期的な成果と中長期的な成長のバランスを判断する局面においては、十分に時間をかけて議論を尽くし、株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまに対して説明責任が適切に果たせるよう努めます。また、企業価値の適切な評価という観点から、PBRや株価水準についても、取締役会で継続的に議論すべき重要テーマとして注視していきます。
— 目指す未来像に向けて、 全力で支える
グローバル競争が激化する中、事業環境は決して平坦ではありません。しかし、すばらしい使命のもとで独自の強みを磨き、世界シェアNo.1製品を育ててきた当社の経営の質は、極めて高いポテンシャルを有しています。
研究開発型企業が生み出す新たな価値が収益として結実するまでには、相応の時間を要します。だからこそ、当社が何にこだわり、どのような未来を描くのかというビジョンを、これまで以上に明確に示すことが重要です。私は社外取締役として、客観的な視点から議論を活性化させ、経営の実効性向上に尽力していきます。そして、議論を尽くして進むべき方向が定まったならば、その道筋を全力で支援し、ともに責任を果たす覚悟です。株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、当社の変革に向けた歩みを中長期的な視点で見守っていただき、一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。