<ジェネスタ> 耐熱性ポリアミド樹脂の生産体制強化
当社が独自技術により開発した<ジェネスタ>耐熱性ポリアミド樹脂は、1999年の事業化以降、電気・電子分野を中心に順調に拡大してきました。さらにその特長を生かし、自動車部品など新分野への広がりが期待されています。
今後の需要拡大に対応するため、今般<ジェネスタ>樹脂、およびその主要原料モノマーであるノナンジアミンの増設を行い、生産体制を大幅強化することを決定しました。
<ジェネスタ>は、当社が世界で初めて工業化したノナンジアミン(炭素数9のジアミン)を使用した新しいポリアミド樹脂(PA9T)です。この<ジェネスタ>は芳香環と高級脂肪族鎖からなるユニークな化学構造の半芳香族ポリアミドで、耐熱性、低吸水性、摺動性、耐薬品性などに優れた特長を持っています。
近年、電気・電子部品分野では、欧州のRoHS指令に代表される環境規制の強化に伴い、「鉛フリー」化が急速に進んでいます。携帯電話、パソコン、スマートメディアなどコネクタ用途を中心に、SMT(表面実装技術)対応の高耐熱材料として<ジェネスタ>の需要が急拡大しています。
さらに今後は、自動車分野のベアリングリテーナー・各種ギア、燃料配管、ラジエータ部品など、耐熱性・高摺動性等が要求される部分への採用が期待されています。
こうした需要拡大を受けて、当社は現有の樹脂生産設備のデボトル増強(年産4,500トン→5,500トン 2007年8月完工)を実施していますが、さらに大きな市場の伸びが予想されることから、樹脂および原料モノマーの増設投資を行い、樹脂の総生産能力を2010年までに年産12,500トンに拡大することとしたものです。
生産体制強化の概要
(1) 生産能力
事業所 | 現有能力 | デボトル後 2007年8月 | 増設(第一期) 2008年8月稼動 | 増設(第二期) 2010年稼動 | |
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樹脂PA9T | クラレ西条 | 4,500 | 5,500 | 5,500 | 5,500 |
鹿島事業所 | 5,500 | 5,500 | |||
1,500 | |||||
合計 | 4,500 | 5,500 | 11,000 | 12,500 | |
モノマーノナンジアミン | 鹿島事業所 | 3,000 | 3,000 | (休 止) | |
7,000 | 7,000 | ||||
合計 | 3,000 | 3,000 | 7,000 | 7,000 |
(2) 投資額
約100億円(モノマー 80億円/樹脂 20億円)
<ジェネスタ>の特長
- (1) 優れた耐熱性
- 融点が高く(306℃)高温時物性に優れる。ハンダ耐熱性270℃。
- (2) 低吸水性
- ポリアミドで最も吸水性が低く、吸水による寸法変化・機械物性低下がほとんどない。
※(1)、(2)の特性から、表面実装時のブリスター(気泡)発生も防ぐ - (3) 優れた摺動性(しゅうどうせい)
- 摩擦に強く、摩耗しにくい。
- (4) 優れた成形性
- 流動性が高く薄肉成形が可能。また結晶化速度が速く、ハイサイクル成形が可能。
<ジェネスタ>のターゲット分野(※下線は今後の採用を目指す分野)
(1) 電気・電子分野
コネクタ用途 | 鉛フリー化の進展、SMT(表面実装技術=プリント基板の表面に電子部品をハンダ付けする技術)の普及に伴い、リフロー炉内の高温処理(260℃以上)に耐える<ジェネスタ>の採用が拡大。 |
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LED反射板 | 携帯電話のディスプレイ等の光源に用いられるサイドビューLED(発光ダイオード)のリフレクタ(反射板)として採用が拡大。 今後はトップビューLEDへの採用を目指した開発を推進。 |
車載電装部品 | 自動車のECU(電子制御ユニット)に搭載される電子部品に、きわめて優れた耐トラッキング性(絶縁性能)を生かした用途開発を推進。 |
(2) 自動車分野
摺動部品 | 高摺動性、耐熱性、寸法安定性を生かし、ベアリングリテーナーや各種ギア類などの用途を開発。 |
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燃料関連部品 | 燃料バリア性、耐熱性を生かし、配管など燃料回りの用途を開発。 |
ラジエータ部品 | 耐熱性、耐薬品性を生かし、ラジエータホースなどの用途を開発。 |
<ジェネスタ>の化学構造
1)電気・電子分野における<ジェネスタ>のターゲット市場(耐熱樹脂需要)
2)<ジェネスタ>と競合素材との比較
性能 | <ジェネスタ> | PA6T | PA46 | PPS | LCP | |
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耐熱性 | 鉛ハンダ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ |
鉛フリーハンダ | ○ | × | × | × | ○ | |
強度 | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | |
成形性(流動性) | △ | △ | △ | × | ○ |
3)用語解説
- *1 RoHS指令
- EUの特定有害物質使用規制(RoHS:Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment) 指令。2003年2月13日公布・発効。電気・電子機器における鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の使用を2006年7月1日から禁止するもの。廃電気・電子機器の処理で人と環境への悪影響を防止することがねらい。
- *2 SMT(表面実装技術)
- プリント基板の表面にLSIチップなどの電子部品を直接ハンダ付けする技術。
チップなど表面実装部品(SMD:Surface Mount Device)を装着するためのクリーム状のハンダをあらかじめ印刷したプリント基板に、部品を装着する。その後、高温の赤外線リフロー炉内で加熱することでハンダを溶融させ、部品をプリント基板上に接着させる。
従来は、リード線やチップの足などをスルーホール(部品穴)により基板を貫通させた上で裏面にハンダ付けする方式が使われていた。